区長所信表明 
項目

1 はじめに
2 今後の区政運営について
 ■あらゆる世代が生涯にわたって成長し輝くまちの実現
 ■いつまでも健やかに自分らしく暮らせるまちの実現
 ■活力にあふれ多彩な魅力が輝くまちの実現
 ■誰もが誇りや憧れを抱く安全安心で快適なまちの実現
 ■多様な主体と連携した区政運営の推進
3 補正予算について
 ■ヤングケアラーの支援について
 ■第2子の保育料などの無償化、私立幼稚園における預かり保育事業の支援について
 ■区立中学校の部活動の地域連携・地域移行に向けた取り組みについて
 ■予防接種事業の拡充について
 ■観光振興事業の充実について
 ■カーボン・オフセット事業の実施について
 ■台東区庁舎整備基金の創設について
4 おわりに


代表質問の概要

代表質問とは 各会派の代表者が区長提出議案や区長の政治姿勢などに対し、質問を行うことです。


台東区議会自由民主党

石塚猛

財政について

 1 国で検討されている経済財政運営と改革の基本指針の原案を見ると、少子化対策やこども政策の抜本強化等といった新しい資本主義の加速に取り組むとされており、本区も対応すべき課題が多いと感じる。一方で、区の財政運営を振り返ると、コロナ禍以降、一般財源の大幅な減収を見込み、必要な事業見直しを進めるとともに、厳しい状況下で予算編成を行うなど、非常に難しい舵取りを迫られてきたと考える。改めて、先行き不透明な状況で必要な財政力を維持していくことの難しさを感じているが、本区の財政の現状をどのように評価しているのか。2 令和4年度に行った都区財政調整協議では、特別区の児童相談所設置に伴う都区間の配分割合の協議が整わず、令和5年度の都区財政調整について合意に至らなかった。特別区の児童相談所設置について、特別区は、都区間の役割分担の大幅な変更に当たるため、配分割合を変更し、設置区の所要額に見合う財源を確保すべきとしているが、都は、大幅な役割分担の変更には当たらず、配分割合を変更せずとも財源は足りているとし、議論は平行線をたどっている。このまま合意に至らない状況が続けば、特別区の行財政運営だけでなく、児童相談行政に関する都区の連携にも影響を及ぼしかねないと感じるが、現状を打破すべく、今後どのように取り組んでいくのか。3 今定例会で提案された補正予算には、庁舎整備基金への積立金が計上されている。必要な区民サービスを維持しつつ、老朽化した公共施設の更新も確実に実施するためには、将来への備えが大変重要である。新たな庁舎整備基金の創設等から、基金残高は長期総合計画に掲載された財政収支推計より増額となり、500億円を超える規模となった。十分な額を確保しているようだが、バブル崩壊が始まっていた平成4年度に約570億円あった基金残高が、平成16年度に約233億円と半分以下の規模となったことなどの過去の教訓から、必要な区民サービスを確実に実施するためには、一定の備えをしなければならないと考える。また、起債については、財源調達のための長期の借り入れとなるが、世代間の負担の公平を図る機能もある。そのため、公共施設の整備にあたっては積極的に活用していく必要があるが、過度な活用は将来の財政負担の増加にもつながるため、慎重な判断が必要である。そこで、基金と起債について、今後どのように活用していくのか。4 今後の区政運営について、長期総合計画の主な施策には、(仮称)北上野二丁目福祉施設の整備等、多額の経費が見込まれるが、確実に推進していくべき事業が多く含まれている。国の月例経済報告では、景気の先行きについて、緩やかな回復が続くことが期待されるとしているが、新型コロナウイルス感染症など未曾有の事態を経験すると、決して将来を楽観視することはできず、必要な施策を強力に推し進めるためにも、財政力を維持していく必要があると考える。そこで、区政3期目となる今後4年間について、どのように強固な財政基盤を維持し、持続可能な財政運営を推進していくのか、区長の所見を伺う。

 1 今定例会では、今後3年間の行政計画を示し、併せて財政的な裏付けとなる財政収支推計を掲載している。今後、この財政見通しのもと、計画事業の着実な推進とともに、新たな行政需要にも臨機応変かつ迅速に対応していかなければならない。こうした中、区財政は、一定の基金残高の確保とともに、特別区民税等の一般財源についても回復傾向にあることから、財政状況が急激に悪化した際等にも機動的に対応できる財政力を維持できているものと考えている。2 都と特別区の関係は、地方自治法により、都が行う市町村事務は限定的とされ、その他の市町村事務を特別区が一般的・優先的に処理するという役割分担の原則が明確化されている。また、財政面では、都区財政調整を通じて、市町村財源である調整税等を役割分担に応じて配分する財源配分の原則が確立している。そのため、役割分担に変更があれば、配分割合を変更して対応することになる。引き続き、特別区長会の役員として、特別区の主張に沿った合意が得られるよう、各区とも十分な連携を図り、23区が一丸となって強い姿勢で協議に臨んでいく。3 基金については、景気変動に伴う大幅な歳入減の際にも、必要な区民サービスを維持する財源調整機能や大規模な施設整備等に備え、計画的に財源を確保する機能を有しており、重要な役割を担っている。現在示している財政収支推計では、令和7年度末の基金残高が約514億円となっているが、長期総合計画の最終年度となる令和10年度には、施設整備の進捗等により、約347億円となる見込みである。引き続き、将来の財政需要を踏まえた上で、社会経済状況の急激な変化にも確実に対応できるよう、一定の基金残高を確保するなど、適切に基金を活用していく。また、起債については、世代間の負担の公平を図る機能があるが、特別区債の発行により後年度の償還経費が増加するため、財政を硬直化させる要因の一つにもなる。本区の財政構造は、扶助費の割合が高く、結果として経常収支比率が高くなる傾向にあり、財政の硬直化が懸念される状況である。将来の財政需要や財源の見通し、また、基金の現在高等の財政状況を十分見極めた上で、過度な後年度負担が生じないよう慎重かつ有効に起債を活用していく。4 景気の先行きは依然として不透明な状況であるが、子育て支援等の充実等、増大する行政需要に適切に対応するには、中・長期的な視点に立った強固な財政基盤の維持が必要不可欠である。引き続き、一層の歳入確保に努めるとともに、経常的経費の更なる節減やICTの活用等、より効率的・効果的な手法による事業の再構築等を行っていく。今後とも、景気変動や臨時的な行政需要の増大にも対応できる持続可能な財政運営を推進していく。


台東区議会公明党

松尾伸子

窓口での区民の満足度向上の取り組みについて

 区役所での相談や手続きは、複数の窓口にわたることもあり、所要時間も長時間になるため、来庁者の大きな負担となっていると実感している。「出向かない窓口」の取り組みの一環として、手続きの郵送化を実施するなど、少しずつ改善は進められているが、手続きに要する書類の量の多さ、複数の書類へ何度も同じ内容を記入することなど、課題は残っている。このような中、近年、デジタル・トランスフォーメーションの一環として、職員が来庁者から相談内容を聞き取り、書類を作成する「書かない窓口」の取り組みが各自治体で進んでいる。また、国においては、窓口のワンストップ化の導入を推奨している。窓口のワンストップ化は、職員の負担が増加する場合があることや、これまで以上に幅広い業務を覚えるためのスキルアップが必要といった課題があるが、業務効率化と来庁者の満足度向上の双方を実現できるため、多くの自治体が導入の必要性を感じているという調査結果もある。そこで、窓口のワンストップ化など、区民の利便性を高め、負担を軽減するための取り組みを早急に進めるべきではないか。

 窓口は、届出等の内容や時期などにより、待ち時間が長くなることや手続が煩雑であること等の課題があり、より利用しやすくなるよう改善していくことは重要であると認識している。そのため、区ではこれまでも子育てや高齢福祉に関する総合相談窓口の設置や、転出転入手続のワンストップ化の実施など、来庁者の利便性向上に取り組んできた。また、自宅からいつでも様々な手続ができる電子申請の拡充やオンライン決済の導入等、手続の負担を軽減する取り組みを推進している。今後も区民の利便性の向上のため、行政サービスのオンライン化を推進するとともに、申請手続の簡素化や来庁者に対する案内を工夫するなど、窓口での区民の満足度向上に資する取り組みを進めていく。

今後の住宅施策について

 単身や夫婦のみの高齢者世帯は、全国的に大幅な増加が見込まれている。しかしながら、高齢者向け住宅の供給が絶対的に少ないことや、貸主の大半が高齢者の入居を望まないこと、貸主自身の高齢化や住宅の老朽化等により立ち退きを余儀なくされることなどから、本区においても、高齢者が住宅を確保することが大変難しい状況となっている。また、新婚家庭や子育て家庭では、昨今の物価高騰により家計の負担が増大しており、本区は近隣県に比べ住居費が高額であるため、住み慣れた地に将来にわたって住み続けることが大変難しい状況となっている。更に、今後増加する高経年マンション等の集合住宅は、外壁の剥落による近隣への危害や、景観、防災等の面で、周辺環境に深刻な影響を及ぼす恐れがあるため、管理不全の防止や改善を図っていくことが必要になる。そこで、これらの様々な課題に的確に対応していくため、社会経済状況等の変化やコロナ禍に伴う住み方や働き方の多様化に合わせ、多世代居住やシェアリング、テレワークがしやすい環境を備えた住宅の供給など、時代の変化に合わせた住宅施策が必要ではないか。

 本区においては、少子高齢化の進行や築年数が経過したマンションの増加等のほか、コロナ禍により自宅で過ごす時間が増え、住み心地の良さに関心が高まるなど、住宅や住環境に対する意識が更に変化している。そのため、住まいを取り巻く状況の変化を踏まえた的確な対応が求められている。また、将来にわたり活力ある地域社会の維持・発展を実現していくためには、子育て世帯の定住促進をはじめ、多様なニーズに応じた住宅の供給促進等の施策を更に充実させていく必要がある。そのため、新たな住宅マスタープランの策定に向け、今年度実施する基礎調査にて、区民の居住実態やニーズ、区内の住宅市場の動向を的確に捉えていく。その上で、区民が住み続けられるまちの実現に向けた実効性のある制度や事業を検討していく。

新たな交通手段について

 高齢者や障害のある方、子育て世帯等の区民から、めぐりんの停留所や運行ルートの見直しなど、更なる交通利便性の向上に向けた要望が多くある。近年では、少人数で利用するパーソナルモビリティや、電気で走り環境に優しいグリーンスローモビリティ等の新たな交通車両が登場している。また、運行形態としても、利用者が自ら予約し、希望の時間・場所に送迎してくれるデマンド交通等、きめ細かな交通手段が登場し、各地で実証実験等が行われている。これらの新たな交通手段は、本区においても、めぐりんの運行ルートが少ない地域等で、高齢者を始めとした地域住民の移動手段としての活用が期待される。居住地域による片寄りがなく、誰もが健康で安心して暮らしていくために、交通環境の整備は今後ますます求められてくる。そこで、少子高齢化が続く中で、多様化する区民ニーズに対応していくためにも、このような新たな交通手段の導入を検討すべきではないか。

 新たな交通手段の導入は、多様な区民ニーズに加え、観光客が多く訪れる本区において、更なる交通利便性の向上が期待されていると認識している。移動手段としてのモビリティを取り巻く状況は近年大きく変化しており、車両サイズも一人乗りから数十人が乗車できる車両等がある。また、運行形態も、都市部において、定時定路線だけでなく、利用者のニーズに応じて柔軟に運行するデマンド運行の導入事例が見られるなど、多様化している。更に、技術の進歩や法規制の見直し等により、AIを活用した自動運転等も導入が始まっている。各地では新たなモビリティの走行実験等が行われているが、導入に向けては、地域の特性や安全性等、多様な視点からの検討が必要と考えている。こうした状況も踏まえ、区では新たな交通手段導入の可能性を検証するため、各種モビリティの特性や区内の交通状況、地域特性等の整理を行っており、走行実験についても、実施に向け準備を進めていく。


つなぐプロジェクト 無所属・都民ファースト・国民民主

本目さよ

行政の福祉に対する認識とさらなる推進について

 社会が成熟し多様化したことで、福祉に関する社会の考え方も変わってきている。法改正や制度変更が行われ、福祉に係る行政サービスや民間の事業も充実してきているが、利用者側のニーズや状況も一様ではない。そのため、例えば、障害児の保育について健常児のように保育標準時間では認定されないなど、既存の行政サービス等の対象から外れてしまう方などもいることから、このような方々にもきめ細かに対応していくことがより重要になってきている。そこで、専門職員等のスキルアップや充実、民間との協働等により、個別の事情に寄り添ったオーダーメイドのきめ細かな福祉の推進に全力で取り組むべきと考えるが、本区の福祉に関する方向性について、所見を伺う。

 福祉に関する課題が多様化・複雑化する中、地域における潜在的な福祉ニーズを早期に把握し、必要な支援を適切に行っていくことは大変重要である。そこで、本年3月に地域共生社会の実現に向けた取り組みを推進していくため、地域福祉計画を策定した。この計画に基づき、社会状況の変化に伴う複雑な課題に対応するため、社会福祉協議会など関係機関との連携・協働による包摂的な支援の仕組みづくりに向けて、地域福祉コーディネーターの活用を図り、適切な相談や支援につなげるなど、区の対応力の向上に取り組んでいく。今後、本計画の基本的な考え方を現在改定中の高齢者保健福祉計画等や、来年度改定を予定している次世代育成支援計画に反映させていく。引き続き、各施策を着実に進めていくことで、「誰もがともに支え合い いきいきと自分らしく 安心して暮らせるまち」の実現を目指していく。

子育て世帯が定住するまちづくりについて

 新型コロナウイルスの感染拡大以降、テレワークの推進等により、地方への移住や広い場所に住みたいというニーズが高まる中、本区では、子育て世帯の転出超過が続いており、将来的な人口減少や税収の減少、地域の活力の低下が懸念される。子育て世帯の転出を止めるためには、全般的な子育て支援の拡充が必要であり、特に、親のためのサービスの拡充ではなく、子どものためのサービスの向上が必要である。そこで、例えば、ボール遊びや水遊び、花火等ができる場所の整備、中高生の居場所作りや不登校支援等のハード面と、保育士の人員を見直すことで保育士一人あたりの子どもの数を減らし、きめ細かな保育を可能とするなどのソフト面の両方から、子どものための施策を進めることで、子育て世帯が定住したいと思えるようなまちづくりを更に推進すべきと考えるが、所見を伺う。

 次代を担う全ての子供が、地域の中で健やかに成長し、自立する環境を整えることが重要であると認識している。そのため、子育て支援施策等について、ソフト・ハード面を総合的に定めた次世代育成支援計画に基づき、妊娠期から子育て期の切れ目のない支援や、子育て支援環境の充実、安心できる遊び場の整備等により、子育て世帯が暮らしやすいまちになるよう様々な施策を着実に実施してきた。今年度は、子育て支援事業の利用意向や子育て環境の現状等を把握するためニーズ調査を実施し、国が今後策定するこども大綱も踏まえ、次期計画の策定に着手する予定である。引き続き、全ての子供が健全に育つことができる環境の整備を推進し、子育て世帯が住みやすいまちづくりに取り組んでいく。

自治体DXをさらに加速化する取り組みについて

 国において、デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会を実現することを目的としてデジタル庁が設立され、全国的にDX推進への機運が高まっている。本区でも、情報政策課を新たに設置し、ロボットによる業務自動化の取り組みであるRPAを導入するなど、情報化推進計画に則り着実にDXを推進している。また、今定例会で提案された補正予算でも、AIを活用した子育て支援の仕組みの実証実験や証拠に基づく政策立案をしていくEBPMについての研修等が盛り込まれており、大きく期待している。一方、自治体DXの目的は自治体内部の業務の効率化と住民サービス向上の大きく二つに分けられるが、今回の補正予算の内容は、どちらかと言えば業務の効率化に係る取り組みであり、住民サービス向上に係る取り組みについては、あまり進んでいない印象を受ける。他自治体では、母子手帳のアプリの導入により、手続書類の行政システムへの入力作業が不要となり、業務効率化につながるとともに、来庁時に申請者一人ひとりに合わせたきめ細かな支援が可能となった事例もある。そこで、本区においても、業務の効率化と住民サービス向上の両面から、自治体DXを加速化すべきではないか。

 これまでも、情報化推進計画のもと、区民の利便性向上や業務の効率化の実現に向け、来庁することなく様々な手続ができる電子申請の拡充やキャッシュレス決済の導入、RPAによる業務の自動化等、DXを進めてきたが、デジタル技術が目覚ましく発展する現在では、更なるDXを推進し、区民の利便性向上等を図る必要があると考える。そこで、各種手続のオンライン化を拡充するなど、これまでの取り組みを加速させるとともに、AIやロボットをはじめとする最先端のデジタル技術を活用して、より多くの区民へ質の高い行政サービスの提供を図っていく。また、DXが進む一方で、ICTの利用に不慣れな方への支援や、職員のICTリテラシーの向上を図ることも重要であることから、区民の情報格差の解消に向けてオンライン手続の講座を行うなど、デジタル・ディバイド対策の拡充とともに、職員への研修の充実を図っていく。区を取り巻く様々な社会状況が変化する中、その変化に的確に対応し、デジタルの力によって区民サービスの向上と業務の効率化を一体的に進めていくことで、区民の誰もが豊かで快適な生活を実感できる社会の構築を力強く進めていく。