令和5年

新春対談

 今回の新春対談は、東京国立博物館長の藤原誠氏をお招きして、東京国立博物館大講堂で行いました。

藤原誠 (東京国立博物館長)

 1957(昭和32)年、東京生まれ。1982(昭和57)年、文部省入省。文部科学省大臣官房長、文部科学事務次官を経て、2022(令和4)年6 月より現職。

昨年1年を振り返って

区長 あけましておめでとうございます。

館長 あけましておめでとうございます

司会 まずは、お2人に昨年1年を振り返っていただきたいと思います。昨年はどのような1年でしたでしょうか。

区長 昨年は、長期化する新型コロナウイルス感染症や昨今の国際情勢により、原油価格、あるいは物価の高騰など、区民生活や地域経済に大きな影響を及ぼしました。
 そのような状況の中で、区では、オミクロン株に対応したワクチンの接種体制の確保や、区立小・中学校の給食食材の支援など、感染症対策に取り組みながら、必要な施策を迅速に展開してまいりました。
 また、昨年は、ジャイアントパンダが上野動物園に来園して50周年を迎えました。区では懸垂幕やのぼり旗の掲出をはじめ、出生届を出された方にパンダデザインの命名書とクリアファイルを配布するほか、上野観光連盟が記念イベント「うえのパンダフェスタ」
を実施するなど、地域とともに50周年をお祝いしました。
 そして、「上野の山文化ゾーンフェスティバル」は、30年の節目を迎えました。恒例の企画に加え、通常非公開の上野東照宮社殿内部の公開など、特別なイベントが実施され、区民の皆さんをはじめ、多くの方に上野の山で「特別な秋」をお楽しみいただけたの
ではないかと思います。
 藤原館長は、昨年6月に銭谷前館長からバトンを受け継ぎ、フェスティバルを運営する「上野の山文化ゾーン連絡協議会」の会長を務められておりますが、昨年のフェスティバルはいかがだったでしょうか。

館長 昨年は、新型コロナウイルス感染症については、当博物館におきましても、さまざまな形で影響を受けました。例えば、チケットの関係について申し上げますと、事前の予約制度を導入しまして、感染防止のために、中での滞留者を減らすという意味で人数制限を設けました。その結果として入館者の総数がかなり減ってしまい、収入についても残念ながら、大幅な減少となった次第です。
 また、対面の講演会につきましても、コロナ禍では実施ができなくなりましたが、昨年から徐々に再開してきている状況です。
 そのような中、当館は創立150年を迎えまして、記念式典や特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」の開催など、記念の年にふさわしいさまざまな事業を無事に終えることができました。
 「上野の山文化ゾーンフェスティバル」につきましては、30周年記念にふさわしい盛沢山のイベントを実施いたしました。歴史ある旧東京音楽学校奏楽堂でのオープニング演奏会など、上野の山でしか体験できない、文化の香り豊かなイベントをご提供できたのではないかと考えております。

東京国立博物館創立150年について

司会 「東京国立博物館創立150年」についてお聞きしたいと思います。
 昨年は、東京国立博物館が発足してから150年という記念の年でした。
 これまでの東京国立博物館の歩みや取り組みについてお聞かせいただけますか。

館長 ここ東京国立博物館につきましては、1872(明治5)年に、博覧会が開催されまして、それを契機に、「文部省博物館」という形で発足いたしました。
 開館後間もなく内山下町、これは現在の千代田区内幸町にあたりますが、そこに移転しまして、その後、1882(明治15)年には、上野公園に移り、現在に至っております。
 この間、1923(大正12)年には、関東大震災により旧本館が損壊しまして、その後、現在の本館が開館するのは、15年後の1938(昭和13)年のこととなります。
 また、1952(昭和27)年には「東京国立博物館」という現在の名称に改称されました。さらに2007(平成19)年には、「独立行政法人国立文化財機構 東京国立博物館」という形になりました。
 展示の面で申し上げますと、1965(昭和40)年に「ツタンカーメン展」が開催されまして、そこでは入館者数129万人を記録しました。1974(昭和49)年には、あの有名な「モナ・リザ展」が開催されまして、入館者数が151万人と過去最高の数字を記録しました。
 最近の展示について申し上げますと、2009(平成21)年に「国宝 阿修羅展」が開催されました。この時には95万人の入館者を記録しまして、いわゆる「仏像ブーム」をもたらした展示会となりました。
 2017(平成29)年には、常設展の総合文化展の年間来館者数が初めて100万人を突破しました。この年は、特別展も合わせて年間257万人の方に来館していただきました。
 昨年は創立150年を迎えまして、特別展「国宝東京国立博物館のすべて」におきましては、開催期間中に当館の所蔵する国宝89件すべてをご覧いただきました。
 また、特集「未来の国宝 ― 東京国立博物館 書画の逸品 ―」におきましては、数万件に及ぶ絵画や書跡、歴史資料の中から、当館の研究員が選んだ未来の国宝を12回にわたって展示しているところです。すでに9回分を終えておりますが、皆さんから大変ご好評をいただいております。
 また、「月イチ! トーハクキッズデー」につきましては、これまで年1回の子供向けイベントとして開催して参りましたが、150年を記念しまして、毎月開催としました。中身としても、紙芝居や落語などさまざまな催しを実施しまして、こちらもすでに9回開催しておりますが、お子様に楽しんでいただけたのではないかと思います。
 そして今年は、台東区と連携した企画として、1月31日から、「王羲之と蘭亭序」という展示を東洋館にて行う予定です。これは台東区立書道博物館との連携企画として行うものでして、連携企画20周年記念としまして、連携企画の第1回で取り上げた王羲之の「蘭亭序」を中心に作品をご紹介いたします。
 是非とも当館および台東区立書道博物館、いずれにつきましても、ご来館をいただきまして、王羲之の魅力を味わっていただければありがたいと思っております。

司会 藤原館長ありがとうございました。では続きまして、服部区長にお聞きします。服部区長はこの長い歴史の中で、東京国立博物館についてどのようにお考えでいらっしゃいますか。

区長 東京国立博物館は、長い歴史の中で、関東大震災や戦争、あるいは所属官庁が変わるなど、多くの困難な時期もあったと思います。
 それを乗り越えられた、歴代の館長あるいは職員の皆さんの大変なご苦労とご努力に改めて、敬意と感謝を申し上げます。
 昨年は、創立150年記念として、特別展「国宝東京国立博物館のすべて」が開催されました。国宝89件すべてを含む、名品の数々の展示は、まさに圧巻でした。
 また、今年1月末から開催される「王羲之と蘭亭序」の展示は、書道博物館と連携するということで、本区も大いに期待をしています。
 書道博物館は、洋画家であり、書家でもあった中村不折の邸宅跡に建立されています。
 中村不折が収集した東洋美術史上貴重な文化財を多く収蔵しており、台東区にとって貴重な文化遺産でもあります。
 東京国立博物館におかれましては、今後も、日本の文化を未来へ、そして世界へ伝える博物館として、大いに発展されますようお祈りいたします。

東京国立博物館・台東区立書道博物館連携企画20周年

「王羲之と蘭亭序」(おうぎし と らんていじょ)

期間 1月31日㈫~ 4月23日㈰
場所 東京国立博物館  東洋館8室、台東区立書道博物館 ※会期中展示替えあり

上野恩賜公園開園150周年ついて

司会 今年はさらに上野恩賜公園が開園してから、150周年を迎えます。服部区長、台東区と上野恩賜公園についてお聞かせいただけますか。

区長 「花の雲 鐘は上野か 浅草か」江戸の俳人松尾芭蕉が詠んだように、昔から上野の桜は多くの方に親しまれてきました。
 1873(明治6)年、オランダの軍医ボードワン博士の進言により、日本初の公園に指定されました。その後、博物館や動物園、美術学校、音楽学校など、当時の文化・芸術の先端施設がつくられ、日本の文化の集積地となりました。
 震災や戦災を乗り越え、1972(昭和47)年には、ジャイアントパンダ、ランラン・カンカンが日本で初めて来園しました。以来、上野周辺の商店街や町会が、パンダフィーバーに沸き、地域の活性化や経済活力を生み出すなど本区へ大きな効果をもたらしてくれま
した。
 そして2016(平成28)年に、ル・コルビュジエの建築作品である国立西洋美術館が、都内初の世界文化遺産に登録されました。区と地域が一体となって、登録推進活動を展開していることが高く評価されました。
 松方幸次郎氏が大正年間ヨーロッパで美術品を収集し、パリで保管されていた作品群が、戦後フランス政府から寄贈返還され、現在の場所に国立西洋美術館が誕生しました。
 「世界遺産のあるまち台東区」として、貴重な文化遺産を大切に守り、後世にしっかり継承して参ります。
 今後も、上野恩賜公園とともに、「国際文化観光都市 台東区」として、歴史や文化を世界に発信して参ります。

司会 それでは続きまして、藤原館長、上野恩賜公園と東京国立博物館についてお聞かせいただけますか。

館長 東京国立博物館が上野恩賜公園に移転いたしましたのは、1882(明治15)年のことでして、それ以来140年以上にわたりまして、当館は上野恩賜公園とともに歩んできた歴史があります。
 この間、1923(大正12)年には関東大震災、また1945(昭和20)年には太平洋戦争で空襲がありました。
 さらには、2011(平成23)年ですが、東日本大震災もありまして、2020(令和2)年には新型コロナウイルス感染症の大流行もありましたが、こういったさまざまな災害を乗り越えてきました。
 その都度、東京国立博物館のみならず、この上野恩賜公園についても、より力強いたくましい施設に生まれ変わってきたのではないかと考えております。
 これからも「上野の山文化ゾーンフェスティバル」といったイベント等を通じまして、私どもは上野恩賜公園とともに歩み続けていきたいと考えております。

今年の抱負

館長 当館は昨年150周年を迎えた次第であります。そういう意味で今年は新しい一歩を迎える最初の年ということでありまして、私はその節目の年に、館長にならせていただきました。しっかりと頑張っていきたいと思います。
 これまでの150年という長い歴史の中で当館が果たして参りました役割、あるいはその使命を踏まえまして、文化財の収集・保管、それから調査研究、さらには公開、こういった博物館の基礎となる事業をしっかりと実施していくのは当然のことといたしまして、さらには、未来に向けまして、博物館が持続可能な形で事業を展開していくということはとても大事だと思っております。そういったさらなる発展を目指しまして、台東区とともに歩んでいきたいと思っております。

区長 本年は新型コロナウイルス感染症の感染状況や、景気動向に注視しつつ、妊産婦や子育て・若者支援、高齢者・障害者福祉サービスの充実をして参ります。厳しい経営状況が続いている区内事業者への支援や、誰もが安全で安心して暮らすことができるまちづくりなど、各施策を着実に推進して参ります。
 また、今年は、浅草に生まれ、都の職員として下谷区役所、現在の台東区役所に勤めていたこともある時代小説家、池波正太郎氏の生誕から100年を迎える年です。
 より多くの方にその魅力に触れていただけるよう、各種イベントなどを実施して参ります。
 今後も区民や事業者の皆さんが希望と活力に溢れる明るい未来を描けるよう、全力で区政運営に邁進区長 して参ります。

東京国立博物館長 藤原誠  台東区長 服部征夫 


区の世帯と人口 【12月1日現在】
※住民基本台帳による
  世帯数  128,474世帯(前月比+211世帯)   人口  207,482人(前月比+272人)